知財コラム⑫

ダン・ブラウンの世界観と知財 ~意識は「発明」になり得るか〜

「ダ・ヴィンチ・コード」の著者として有名なダン・ブラウンの待望の新刊『シークレット・オブ・シークレッツ』をようやく拝読しました。

 結構なボリュームの上下巻であったため、かなり飛ばし読みをしてしまいましたが、本作で深く掘り下げられていた「人間の意識」や「死生観」に対する新たなアプローチには、衝撃を受けた、というよりも、自分がこれまで経験したことや考えてきたことに照らして、共感できることが多々ありました。

 物語の中で描かれる、科学と精神世界が交錯する描写に浸りながら、「人間の意識とは物理的な現象なのか」「死とは単なる終わりではないのか」といった根源的な問いに向き合っていたとき、ふと職業柄でしょうか、無粋ながらも興味深い疑問が頭をもたげました。

「もし人間の『意識』や『魂』の正体が科学的に解明されたとき、それは知的財産権の対象になるのだろうか?」

今回は、新刊の興奮冷めやらぬまま、少しSFチックですが、あながち絵空事とも言い切れない「意識と知財」の関係について考えてみたいと思います。


1.「意識」は特許になるか?

 まず、日本の特許法における「発明」の定義を振り返ってみます。特許法第2条第1項では、発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいう」と定義されています。

 今回の新刊でも示唆されていたように、もし「人間の意識」が質量を持ち、物理的なエネルギーとして観測可能な「自然法則」に基づいていることが証明されたとしたらどうでしょうか?

 仮に、意識をコントロールして物理現象を起こすプロセスが解明されれば、それは「自然法則を利用した技術的思想」として、特許の対象になり得るかもしれません。

 「念じるだけでデバイスを操作する技術」などは、すでにブレイン・マシン・インターフェース(BMI)として研究が進んでいますが、これはあくまで脳波(電気信号)の利用です。しかし、もし「魂」そのもののメカニズムが解明されれば、「魂の抽出方法」や「意識転送システム」といった特許出願が、遠くない未来、特許庁の審査官端末に並ぶ日が来る……かもしれません。


2.マインド・アップロードと著作権

 また、近年議論されている「マインド・アップロード(意識のデジタル化)」が現実になった場合の「死生観」と「知財」の問題も興味深い点です。

 肉体が滅んでも、意識をクラウド上にアップロードして生き続ける世界。この時、アップロードされた「デジタルの私」は、法的にどう扱われるのでしょうか?

 プログラムの著作物?:デジタルの意識が単なる「高度なプログラム」とみなされるなら、それは著作権法で保護される対象となります。では、その著作者は誰でしょう? オリジナルの「私」でしょうか、それともアップロード技術を提供した「プラットフォーマー」でしょうか?

 AIによる発明の権利:現在、世界中で「AIが自律的に行った発明の権利者は誰か(AIを発明者と認められるか)」という議論(DABUSプロジェクトなど)が行われていますが、まだ多くの国でAIの権利能力は否定されています。もし、アップロードされた元人間の意識が新しい技術を開発した時、それは「人間による発明」なのか「プログラムによる自動生成」なのか。

 ダン・ブラウンが描く「精神世界と科学の融合」が近づくにつれ、私たちの知財法制度もまた、哲学的な再定義を迫られることになるでしょう。


3.現代の「錬金術」としての知財

 かつて錬金術師たちが物質から金を生み出そうとしたように、現代の企業は「データ」や「アイデア」という無形のものから価値を生み出そうとしています。

 弊社のこれまでのコラムでも、AIモデル(Transformer)やオープンデータ処理の特許マップを取り上げてきましたが、これらも広義には「人間の知能・意識のプロセス」を模倣・代替しようとする試みと言えます。

 科学が「意識」や「死」の領域に踏み込めば踏み込むほど、それを独占・保護するための知財戦略は、これまで以上に倫理的かつ複雑なものになっていくはずです。

 小説の中の出来事のように思えますが、特許出願のトレンドを追っていると、SFが現実になる速度は年々上がっていると感じます。

 「意識の特許」なんて時代が来る前に、まずは足元のAI技術やデータ処理技術の権利化をしっかりと固めておくことが、現代のビジネスにおける「秘儀(シークレット)」と言えるかもしれません。


 弊社では、最先端のAI技術から、少しニッチな技術分野まで、広範な特許調査・分析を承っております。

 「自社の技術が、競合の特許網(マトリックス)のどこに位置するのか知りたい」「このアイデアは特許の定義(自然法則の利用)に当てはまるのか?」といった根源的な疑問等がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

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