知財コラム⑧

~仮出願:Provisional Application(特許法38条の2は仮出願の条文か?!)〜

先日、個人発明家のお客様より、相談を受けました。
詳細は割愛し、このお客様からのざっくりの要望はどのようなものだったかといいますと、自らの発明について「とにかく早く出願して、特許出願中であることを公示したい」というものでした。

そう聞いて、1つ思い出したことがありました。以前勤めていた特許事務所で、ある弁理士が言っていた「…これは仮出願で出願する…」という言葉です。

その時、私は、アメリカに仮出願の制度があることは知っていましたが、
「日本にもあったんだっけ?」と思ってしまいました。

しかし、私は、彼の言う仮出願(?)が、どのような形式で、どのような要件の下で認められる出願であるのか、深く突っ込んで訊くことを怠りました。よって、彼の言う「仮出願で出願」がどのような出願であるか把握していませんでした。

そこで、「うろ覚えではあるのですが…」ということわり付きで、
「日本にも仮出願というものがあるらしいので、それで出願してはどうか?」
とお客様に提案しました。

と提案はしたものの、そもそも、日本に仮出願というものはあるのでしょうか。
まず、アメリカの仮出願から見てみましょう。

INPITの用語集によりますと以下の記載がありました。

「クレームが要求されない略式の出願。明細書の様式も厳格には要求されない。しかし、実施可能要件やベスト・モード要件は要求される。英国、豪州にも同様な制度がある。」

なお、ベスト・モード要件とは、米国特許出願の要件の一つであり、発明者が最良と信じる発明の態様を明細書に記載しなければならない要件のことです。

では、根拠となる条文はどうでしょうか。米国特許法111条(b)を見てみましょう。

A provisional application for patent shall be made or authorized to be made by the inventor, except as otherwise provided in this title, in writing to the Director. Such application shall include–
(A) a specification as prescribed by section 112(a); and
(B) a drawing as prescribed by section 113.

これをすごく簡単に要約すると大体以下のようになります。
「仮出願は…明細書と図面を含むものとする。」

そして、
A claim, as required by subsections (b) through (e) of section 112, shall not be required in a provisional application.
「クレーム(請求項)は、仮出願においては必要ではない…」と続きます。

一方、日本の仮出願(?)はどのようなものでしょうか。
我が国の特許庁は、仮出願を通常の出願に代わる新たな出願として謳っておらず、特許法においても米国特許法のようにProvisional Application(仮出願)と題された条文はありません。

しかし、米国の111条(b)と似たような条文は存在します。
特許法第38条の2第1項を見てみましょう。

第38条の2(特許出願の日の認定)
特許庁長官は、
特許出願が次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特許出願に係る願書を提出した日を特許出願の日として認定しなければならない。
一 …
二 …
三 明細書(外国語書面出願にあつては、明細書に記載すべきものとされる事項を第36条の2第1項の経済産業省令で定める外国語で記載した書面。以下この条において同じ。)が添付されていないとき(次条第1項(先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願)に規定する方法により特許出願をするときを除く)。

とても分りにくいですね…
ここでもごく簡単に分かり易く説明すると、
「願書に明細書を添付して提出すると、その提出した日を出願日として認めますよ」
という意味になります。

要するに、請求項(特許請求の範囲)は出願時には必要ないですよ、ということですが、米国特許法のように条文には明記されていません。

まとめると、日本には仮出願と積極的に題した出願(制度)はないけれども、米国の仮出願と似たような出願は可能であるということになりそうです。

なお、我が国でも、明細書には実施可能要件が求められるので、最初からある程度きちんとした明細書を出さなければなりません。

明細書を書くのが一番時間がかかるのに、その明細書を最初から要求されるというのは、いかがなものでしょうか…。
異論は有るかとは思いますが、個人的には、さほど通常の出願と変わらないような気がします。

知財コラム⑦

~Transformer(機械学習モデル)ポジショニングマップ〜

今回は、BERTに代表されるTransformer(機械学習モデル)について簡易検索を実施し、マップ化してみました(*ごく簡単な検索結果に基づくごく簡単な分析の可視化です)。

Transformerとは、2017年に発表された「Attention is All You Need」という論文により紹介された次世代の画期的機械学習モデルです。より効率の良いトレーニング(学習)とより精度が高い各種推論を行うことができます。

2017年以降、このTransformerをベースにした機械学習モデルが数多く発表され、現在の主流となっています。(Transformerの詳細はググってみて下さい。数多の解説がありますが、にわかには理解が困難です…)

その中でも、2018年、GoogleによりリリースされたBERTは、大規模コーパス(言語データの集合体)をインプットして生成した事前学習モデルを独自の方法でトレーニングしていくモデルで、進化系や派生系が各国の研究者から発表されています。

さて、今回のマップは2枚で構成されています。
1枚目は、検索結果の出願データを基に、世界地図上での分布などを表しました。
2枚目は、出願データをざっくりと分類分けし、それを3つのレイヤー上に分類名・出願数で配置しました。その下にある出願のCAGRは1枚目の棒グラフを基にしており、市場のCAGRは他社のデータソースから、市場リーダーは、単純に出願数から導き出した私の勝手な予想です。

Transformer-Map

なお、「もっと凝った検索による出願データを基にした調査をして欲しい」
「ある特定の企業や特定の分野について深堀り調査・分析をして欲しい」
などのニーズがございましたら、ぜひ「問い合わせ」から弊社にご連絡ください!

【追記】

事前学習モデルを用意するBERTのようなモデルの構造的な課題は、高度すぎて窺い知しませんが、莫大なインプットで生成する事前学習モデルを作るのは、明らかにボトルネックであり、今後の課題となってくると思われます。

例えば、NICT BERT 日本語 Pre-trained モデル(https://alaginrc.nict.go.jp/nict-bert/index.html)には
「学習は32枚のNVIDIA Tesla V100を使用し、BPEなしで9日、BPEありで7日で完了」
との記載がありました。

聞くところによりますと、このV100というGPUは1枚100万円以上するそうです!このようなハードウェアリソースを用意できる組織はなかなかないのではないでしょうか。オンラインサービスを利用する手もありますが、やはりコストはかかりますし、日数は上記以上にかかると思われます。

知財コラム⑥

~特許調査費用助成事業〜

今回は知財の助成金のお話です。しかも、あまり知られていないであろう「特許調査費用助成事業」についてです。

これは、東京都知的財産総合センターが毎年(いつから実施しているのかは存じませんが)実施している事業で、ざっくり言うと、特許関連調査にかかった費用が半額支給されるという助成金事業です(上限100万円)。

特許関連調査に当てはまるのは、先行技術調査、特許無効調査、出願動向調査、パテントマップ作成費用などなどです。

詳しくは、以下にリンクを載せておきましたのでご参照ください。

https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/chosa/index.html

助成の対象となる調査の範囲が意外と広いので、これを有効に活用しない手はないと思います。

しかし、対象は都内の中小企業または個人事業者に限られ、提出すべき書類も相当数ありますのでご注意ください。

弊社でも特許関連の各種調査を随時承っておりますので、助成金を使って、自社技術の特許取得の可能性を知りたいなどのニーズがございましたら、ぜひご一報ください!

知財コラム⑤

~「オープンデータ処理」領域のポジショニングマップ〜

弊社クライアントである株式会社XAION DATA様が、コア技術の1つにつき特許出願をし、先日、特許(特許第7116940号)を取得いたしました。

発明の名称は「オープンデータを効率的に構造化し補正する方法及びプログラム」です。

そこで、弊社は、この技術領域の主要プレーヤーとXAION DATA様のポジションを把握するべく、技術領域を「オープンデータ処理」とし、ポジショニングマップを作成してみました。

なお、元データは、非常に簡単な検索条件で抽出した国内特許出願のみです。

Opendata-positioning-map_2

*page1 in Japanese, page2 in English

繰り返しになりますが、元データは、簡単かつ狭い検索条件で抽出していますので、特許出願の数は55件だけ(マップに現れていないものはノイズ)で、それらを汎用性がある発明か、特定事業に特化したものなのかを読み込んで判別しました。

汎用性がある発明は思っていたより多く、その中でもXAION DATA様の発明は、点在するデータをフォーマットし、属性判断やタグ付けをして構造化、そして重複排除等の補正をするという点から、ネット上に点在するローデータを利活用するための技術として重要なポジションに位置しているという印象です。

一方、マップに現れているとおり、日立系の出願が目立つことから、日立系列企業はこの分野でのマーケットリーダーを目指している、とも言えそうです。

いずれにせよ、今回の検索範囲は狭い範囲に限られたものですので、広範囲の検索をすると顔を出してくるプレーヤーも多様化するものと推測します。また、特定のプレーヤーの深堀り調査をすることで、事業展開や新規事業への進出が見えてくることもあります。

以上のような本格的調査・分析は随時承っておりますので、気軽にご相談ください。

知財コラム④

~ドワンゴ特許侵害訴訟敗訴の件〜
<ハードウェア構成の一部が外国にある場合>

ドワンゴ対FC2他の特許侵害訴訟の判決が地裁レベルではありますが、実質ドワンゴ敗訴という内容で業界をざわつかせたのは記憶に新しいところです。

今回は、その判決のポイント部分にフォーカスし、さらに、2022年7月20日に出された別特許の判決に触れていこうと思います。

まず、令和4年3月24日に出された発明の名称を「コメント配信システム」とする特許第6526304号に係る判決のポイントを見ていきましょう。

訴訟の争点は複数に及び、長い判決文となっていますが、まず、被告であるFC2他のシステムは当特許の技術的範囲に属すると判断されており、それを前提に「争点4(被告らによる被告システムの「生産」の有無)について」の判断が下されています。

ポイントとなる記載を抜粋してみました。

「…したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことになるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることができない。」

「しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内において作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、 明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出されるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1 が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。」

要するに、被告のシステム構成の全部が日本にある訳ではなく、一部がアメリカにあるので、日本国内での生産とは認められず、特許権に係るシステムを実施したとはいえないと判断しています。

ここで私的に疑問なのが、なぜ「生産」に当たるか否かの主張をしたのか?というところです。
というのも、物の発明の実施には「使用」があるからです(法2条3項1号)。

当判決は地裁レベルらしい法律に忠実な形式的判決ですが、被告の行為を「使用」とした場合は、判決の内容は違った可能性もあったのではないかと思います。

訴訟を提起した時点では、「使用」が実施として列挙されていなかったのでしょうか。それとも、何らかの理由で「使用」ではなく「生産」とする必要がドワンゴ側にあったのでしょうか。

そこら辺の事情は判決だけを読む限りではわからなそうです…

そして、7月29日にドワンゴHPに掲載された知財高裁2022年7月20日判決については、

同HP上に以下の記載がありました。

「本判決は、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、日本の特許権の効力を及ぼし得ると判断しました。本判決は、以上を踏まえて、本件におけるFC2動画等のサービスの実態その他の諸般の事情を考慮して、本件各プログラムの配信は日本国内における特許権侵害に当たると判断したものであり、国外のサーバを利用して行われる特許権侵害行為に関して画期的な判断を下したものであると考えております。」

これを見たとき、私は、3月24日の判決の控訴審の判決がもう出されたのかと思い、随分早いなと思いましたが、これは、2018年9月19日に棄却された訴えに対する控訴審判決のようです。

「コメント配信システム」原出願には分割出願が複数あるもようなので、おそらくその分割出願の1つに係る特許に基づく訴えと思われます。

いずれにせよ、知財高裁のこの判断は、アメリカのBlackberry事件(2002~2006年頃)の判決を踏襲するもので、「画期的な判断」というよりは、いたって妥当な判断という気がしました。

特許第6526304号に基づく令和4年3月24日の地裁判決についても、控訴審では同様な判決になると思われます(つまり、次回はドワンゴに有利な判決になるはずです)。

ただ、これだけ長い間、いくつもの訴訟を並行して行っても、アメリカに比べると雀の涙ほどの賠償額なので、我が国で知財訴訟を提起するのは、費用対効果を考えると、引き続きなかなかモチベーションが沸かないアクションといえそうです。

<追記>
昨今のネットまたはソフトウェア関連発明の請求項を物の発明で構成することは、実施の状況に即しておらず、今回紹介した判例のように侵害者に言い逃れをされる隙を与えてしまいます。パッケージ化されたシステムを販売するのでなければ、方法の発明で構成するのが無難でしょう。

知財コラム③

~特許庁で使える審査官端末について~

もうだいぶ前になってしまいますが、特許庁にて「無料」で使える審査官端末を少しいじってみましたので、簡単にレビューをしたいと思います。

まず、霞ケ関にある特許庁2階の公報閲覧室に向かいます。

ここは独立行政法人 工業所有権情報・研修館(特許庁の調査委託機関、そして天下り機関の1つ)の管轄・運営となっています。

閲覧室に入ると受付のお姉さんが対応してくれるので、それに従い、利用者登録の書類に記入し利用者証を発行してもらいます。

この日は平日だけに、というか平日しか開いていませんが…、利用者はまばらで自分を含めて3人くらいでした。新規の利用者は明らかに自分だけでした。なので、手続きもスムーズ、すぐに使い始めることができました。

どの端末を使うかを自ら指定して、使用開始です。

使用方法を教えてくれる当独立行政法人のヘルプの方が常駐していました。2人いたのですが、1人は、机に座ってひたすら何かをやっているぶっきらぼうでありながらも質問するとちゃんと回答してくれる年配の方、そして、もう1人はちっとも働かないで、立ちながらストレッチみたいなことをひたすらやっている年配の方。

そう、この機関に所属している方は、高度な理系の技術的知識が必要という触れ込みで、リタイアした元エンジニアや研究者、そして特許庁OBの受け皿となっているのです(ちなみに、給料は結構良く財源はもちろん公金です)。

なんでも、こういう恩恵に授かっている年配の方曰く、定年後~ボケるまでを待つ老人層に用意されている仕事は、日本には(ピンきりではありますが)たくさんあるそうです。

そういう一種の国による社会福祉が機能しているのなら、なぜ、年金だけで細々と暮らし、いつの間にか孤独死している老人が相当数いるのでしょうか?明らかにこれは、どう生きてきて何をしてきたかではなく、どこに所属してどんな肩書であったかだけで、特定の恩恵に授かれるとても不公平な社会福祉なのではないでしょうか。

少なくとも、雀の涙くらいしか毎月貰えず、公務員の着服の温床となっている年金は抜本的改革が必要と思います。…話がめちゃめちゃ逸れてしまいました。

さて、審査官端末(端末と言っても普通のWinPCからのソフト起動です)のI/Fですが、いわゆる先端の検索、概念検索やセマンティック検索、AIによる自動分類などは一切できないです。

基本的にできるのは、分類コードとキーワードの論理式による検索だけです。

最初に結論だけ言っておくと、使い勝手が悪く、ヒットする件数がなんだか少ないような気がしました。もしかしたら、使いこなせるようになれば、すごく便利な端末なのかもしれません。

検索をするメインの画面(クラスタ検索)のI/Fですが、画面の上から説明すると、まず、公報の種類を選択するチェックボックスなどがあります。これは通常の商用DBにも必ず見かけるので詳細は割愛します。要するに、日本の公報だけか、外国公報も含むのか、などの選択ができます(非特許というオプションもありました)。

次に、分類コードを入力するテキストボックスが続きます。「主テーマ」を入力するテキストボックスが1つ、「副テーマ」を入力するテキストボックスがいくつかあります。ただ、ここでは主/副「テーマ」となっているため、入力できる分類は日本の特許庁の独自分類である「Fターム」一択となっているのです!

いくら特許庁推しの分類とはいえ、Fタームだけ使えとは…これはいくらなんでも不便なのではと思ったのですが、よくよくヘルプを読んでみると、このあと説明するキーワードを入力するテキストボックスに他の分類コード(FIやIPC)を入力することができ、キーワードと共に論理式を組めることが分かりました。これは少し面倒ですね…しかも、「主テーマ」を設定すると、その後のキーワード等は、そのテーマ(Fターム)との掛け合わせ(AND)になるはずなので、例えば、似たような分類を広く取りたいので、FIとFタームをORしたい場合はどうするのか!? Fタームもキーワードを入力するテキストボックスに入力することができるのだろうか?と疑問が湧きましたが、この部分については確認しませんでした。

ちなみに、分類コードを入力し易くするような補助ツールはないのですが、J-PlatPatにあるようなPMGS(分類照会)を立ち上げることは可能です。

さて主/副テーマを入力したら、次は「入力・表示設定」という項目がありましたが、これについては、使い途が分からないので使用しませんでした。よって説明は割愛します。

次に、公知日ですが、これは技術が公知となった日、公報であれば公報発行日となるはずです。始期と終期を指定する2つボックスがありますが、入力は必須ではありません(何も入力しなくても検索は実行できます)。

次は「検索指定」です。これは以下の画像にあるように検索の対象を指定します。例えば、特許と実案にチェックを入れます。その横にあるフリーワード種別というのは、検索対象のテキストの種類かとも思ったのですが、正直、よくわかりません。検索対象は、確か、論理式を入力するときにアルファベット2文字のタグみたいのを入力することで、全文とかを指定できるはずなので、このフリーワード種別の選択で検索対象のテキスト範囲が指定される訳ではないようです。フリーワード種別…なんでしょうね。あんまり気にしなくてもいいように思います。このときはチェックできる2箇所どちらにもチェックしておきました。

その次には、論理式を入力するテキストボックスがあります。「一次検索」「FW二次検索」「全文二次検索」と3つのタブで構成されています。後ろの2つの検索タブは「一次検索」の検索結果に対して、さらに絞り込みを行うためのものなのか?それとも、違った観点からの別の検索を実施するためのタブなのだろうか??このように行政系のソフトはいつも見た目からユーザーフレンドリーでないのが特徴の1つです。

通常は、「一次検索」だけを使って検索結果を得ればよく、大抵はそれで足りるのではないかと思います。この時も「一次検索」のタブしか使いませんでした。

論理式の文法は、割とオーソドックスで、キーワードに+/*のような演算子をつけて組み合わせていきます。また、キーワードの後ろには、近傍の文字数を表す数字や、/(スラッシュ)アルファベット2文字のフォーマットで、検索する対象などを指定することができます(例えば、名称、要約、全文など)。なお、近傍は、テキストボックスの横にある「近傍検索」というオプションをクリックして立ち上げることで、簡単にキーワードとキーワード間の文字数を設定でき、OKをクリックするだけで、論理式がテキストボックスに反映されるので、論理式の手打ちより、こちらのほうが便利です。

論理式を入力して検索ボタンを押すと、検索結果が下に表示されます。

「スクリーニング」は、ヒットした文献の記載内容が隣のモニターに表示され、2ページ毎に閲覧できるのが便利ではありますが、文献が切れ目なくページ表示されていくので、一体どこで終わって、始まるのか、たまに分からなくなくことがあります。

「文献一覧」は、その名の通り、ヒットした文献の一覧を必要最低限の情報により表示します。

その他にも機能はありますが、割愛します。

使ってみての感想は、総じて、使いにくい、ヒット件数が少なめという印象です。使いにくいというのは、単に慣れていないというのもありますが、行政のソフトだけに一度納入されると、その後のアップデートがほとんどなく、UIや機能が改良されないという理由からです。また、検索結果は、デジタルデータで持ち出すことはできず。印刷しかできません。よって、本格的な調査を実施して報告書に落とし込むなどのお仕事には不向きです。

しかし、民間の商用特許データベースを契約すると安くはないお値段となってしまいますので、こういった審査の現場で使うソフトを無料で利用できるのは、東京近郊の方に限定になってしまいますが、非常に有益な行政サービスであると思いました。

惜しむべきは、あまり利用者がおらず、閑散としていることです。

あまり利用者がいないためか、先日、2回目に訪れたとき(2022/7/1)には、以前は広めだった部屋が狭めの部屋に移転になっており、かつ、利用者がゼロでした。なのに、受付の方が2人、研修館からの出向のヘルプの方が3人いらっしゃったので、少しリソースの無駄使いかなという印象でした…。

<追記>
そういえば、この端末で各国でのみ出願されている公報を日本語または英語インプットで検索することができるのかは、不明でした。できるような気もしましたが、できないような気もする端末でした。もしかすると、それについては別の専用端末(または別のDB)があるのかもしれません。

知財コラム②

~新庄剛志氏の肩書「BIG BOSS(ビッグボス)」について~

今回は、北海道日本ハムファイターズの監督に就任した新庄剛志氏の肩書(または別称)「BIG BOSS(ビッグボス)」についてです。なぜ、氏がこの肩書で呼んでくれと人に言っているかは置いておいて、今回はこの「BIG BOSS」が商標登録されているか否かを調べてみました。

J-platpatで調べたところ、4件の文字商標と1件の図形商標がありました。図形商標は、おそらく問題にならない感じのものでしたので、以下、4件の文字商標を表に示しました。

出願人商標(検索用)指定商品または役務
サントリー
ホールディングス
株式会社
BIG BOSSコーヒー及びココア,コーヒー豆,茶
カモ井加工紙株式会社BIG BOSS電気絶縁材料,塗装用マスキングテープ,マスキングフィルム付粘着テープ
KPE株式会社BIG BOSS
ビッグボス
遊戯用器具,スロットマシン,ぱちんこ器具及びその部品
梶原 源太BIG BOSS被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,
履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服

さて、まず登録のステータスですが、1〜3番目までは商標が登録されており、権利としての効力を有しています。最後の商標だけは、ごく最近(2021年 11月 8日)出願されたようで、「審査待ち」のステータスとなっています。侵害の場面について考えると、この最後の商標出願が登録されると新庄氏やファイターズにとって少し厄介なことになりそうです。

というのも、商標だけ見ると、商標に詳しくない方は、全て厄介なことになりそうに思うのですが、仮に、第三者がこれらの登録商標「BIG BOSS」を、指定している商品または役務以外について使用したとしても侵害とはなりません。これを理解した上で1〜3番目の商標の指定商品を見ると、コーヒーや粘着テープ、スロットマシンなどなど、新庄氏や球団がグッズとして扱わなそうなモノばかりです。一方、最後の商標の指定商品を見てみると、被服、ベルト、履物などなどグッズとして販売しそうなモノが目立ちます。すると、仮に、新庄氏や球団がユニフォームに「BIG BOSS」と付して販売を開始すると、厄介なことが起こり得ます。

「厄介なこと」というのは、商標権を侵害している旨の通知から始まり、ライセンス(商標の使用料)の要求、または商標権の売買契約の交渉などに発展し、それらの話し合いが纏まらなければ、損害賠償請求といった裁判沙汰になってしまう、といったところです。

ただ、当商標は、まだ出願段階で審査も始まっていませんから、まだ何らのアクションも起こせません。また、出願日(11月8日)が新庄氏の監督就任会見(11月4日)の後であることから、BIG BOSS(ビッグボス)が新庄氏の肩書として周知になった後から出願したものと思われても致し方なく、審査の過程で、「自らが使用する意思がない商標」である等と判断され、登録に至らないことが十分に考えられます。

仮に、当商標が登録されたとしても、例えば、ユニフォームには球団名やロゴが付されており、通常はそちらが商標と認識され、背番号の上にBIG BOSS(ビッグボス)と付されても、それは選手名を表示しているとしか通常は捉えられないと考えます。しかし、BIG BOSS(ビッグボス)だけがグッズに付される場合には、商標として認識され問題となる可能性が生じてくるでしょう。

ところで、出願人である「梶原 源太」というお名前をググってみると、平安時代末期から鎌倉時代初期の武将である「梶原 景季」(かじわらかげすえ)がまずヒットします。梶原 景季は、「梶原源太景季」(かじわらげんだかげすえ)とも呼ばれ、源頼朝に仕えた梶原景時の長男であったようです。どうやら、「梶原 源太」というお名前は、この武将の名前の一部を採ったものと思われ、本名かどうかは少し疑わしい感じがします。しかも、公報の出願人の情報の下には、代理人の氏名が記載されますが、この商標出願には6名もの代理人の氏名が記載されています。商標出願で6名も代理人をつけている出願人はあまり見たことがないので、良からぬことを企んでいるような匂いがプンプンしました(あくまで個人の感想ですが…)。

なお、出願人の氏名が本名ではなかったとしても、それを理由として出願が拒絶されることはないようです。

【追記】
実は日本ハムファイターズは、本拠地を移転する予定で、新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を建設中なのですが、これについての商標を調べてみると、ちゃんと登録されていました(登録6472361)。かなりの数の商品および役務が指定されており、権利者は「株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント」となっています。このようにしっかりと知財管理がされている会社ですから、どうやら、ファイターズは「BIG BOSS(ビッグボス)」関連の知財についてはノータッチのようです。つまり、「BIG BOSS(ビッグボス)」関連の知財について注意を払わなければならないのは、専ら新庄氏だけということになりそうです。

知財コラム①

~日本国外特許の全文検索について~

 事務所や会社に勤めているといろいろな特許検索DBがあるため、これまであまり気にしていなかったことだが、いざ、先行技術調査のために、自分がDBを契約して使うとなると、数多あるDBの中からコスパと使い勝手が良いものを選ぶとなると、容易ではないことを実感した。というのも、公開公報を対象とした先行技術調査は、公報の全文を検索対象としなければならず、日本語または英語で書かれたものならばともかく、それ以外の言語で記載された公報の文言をどのようにヒットさせるかに苦心することになるからだ。要するに、日本語または英語で書かれた公報の全文検索は、対応するDBが国内にあるからよいが、例えば、中国のみで出願された中国語の公報の全文検索はどうするのか?ということである。

 そもそも、その国だけでしか出願されていない発明を先行技術の対象とする必要があるか?という問題はあるが、技術のカテゴリーによってはマイナー国(本国)だけの出願ということもあり得るし、何より「先行技術調査をやります」と言ったら、対象国を限定する合意をしない限り、建前上、いや特許法上、どんな小さな国の出願の公報でもその全文を検索の対象としなければならない(実際には対象国を限定する契約をすることが多いのではあるが…)。

 以上の観点で、1つのDBでそんなことができるものがあるのか?という疑問も含めて、市場にある利用可能なDBを以下にまとめてみた。

DB名全文検索の範囲詳細
Derwent Innovation言わずと知れた最大手・老舗DB、料金は、言い値で他のDBに比べて抜群に高い。
Derwentは、3つのDBで構成されているとのこと(2019年11月の資料より)。①Global Patent Data ②INPADOC/DOCDB ③DWPI である。ここで②と③は、要約レベルの公報データで、②はEPOが作っているもの、③はDerwentが独自に作成したものである。この③のDWPIがなんと言ってもDerwentの特色であり、使えるのかどうかは置いておいて、これがDerwentの利用料が高い理由の1つと言える。
それで残る①が、公報全文を含んだDBというわけで、原文とその原文を2~3週間かけて翻訳した英文が収録されているとのこと。原文というのは、各国の特許を司る機関から入手した公報データであるはずで、それを機械翻訳して、人手で修正したものが英文データということであろう。
各国の公報全文データを英訳して収録
21カ国英語全文情報収録→2020前半までに75カ国に拡大

※以上、いずれも2019年11月の資料に記載の情報であり、21カ国の詳細不明で、また、75カ国の詳細も不明、かつ本当に拡大したのかも不明
Google Patents以下の国(庁)発行の原文および英訳された全文データを収録(無料)
米国、欧州特許庁(EPO)、中国、ドイツ、カナダ、WIPO、日本、韓国、イギリス、スペイン、フランス、ベルギー、ロシア、オランダ、フィンランド、デンマーク、ルクセンブルク
すべての国でチェックはできていないが、英語キーワードによる全文テキスト検索は可能であるもよう。
WIPO Patent ScopeWO(PCT国際出願)+71ヶ国の原文と英文を収録(無料)。英語以外の原文はタイトル・要約のみ英訳されている。その他の項目は、Patent Scopeの翻訳機能により英訳が可能。国によっては原文だけの収録しかないものがある。そのため、全文テキスト検索ができる範囲は限られる。
Japio-GPG/FX全文を日本語と英語で横断的に一度に検索できる(1ID:33000円/月)。検索できる国/地域・機関は以下の通り。
日本、米国、EPO、中国、韓国、WIPO、ドイツ、フランス、イギリス、台湾
以下、HP上での説明文(そのまま)。
「Japioが特許公報を収集した国や地域、機関の公報全文、および、DOCDBに含まれる世界の特許情報を、中国語などの公報記載言語に加え、機械翻訳技術を活用して翻訳した日本語と英語で横断的に一度に検索できるようにしたサービスです。」
PatBase77か国のフルテキストデータ収録」と記載あり(有料 都度見積り)。77か国の詳細不明。また、どの言語で全文検索ができるのか不明(おそらく英語)。
TotalPatent24カ国のフルテキストデータを含む特許情報は、英語で横断検索することが可能です。」との記載あり(有料 都度見積り)。
JP-NET1ID :8000円/月(日本)、5000円/月(海外)
全文収録国は以下(JPDSのHPより)
日本、米国、EPO、中国、韓国、WIPO、ドイツ、フランス、イギリス、台湾、インド、ロシア

 他にも大手企業のDBや新興のPatsnapなども調べてみたが、全文収録国が不明であるか以上に挙げたDBの対象国数を上回るものは、今回調べた限りでは見当たらなかった。そうすると以上のDBのいずれかを組み合わせて使うこととなりそうである。

 しかし、以上に挙げたDB以外に、通常、一般人は使用できないが、最強と目されるDBがある。それは「審査官端末」である。これのデータソースも気になるところでもあるし、何せ自分では使用した経験がないので、次回は実際に使用してみた感想や関連する情報について書いてみたいと思う。

Youtube CEO interview 5 (株式会社リアルミー 増山祥紘氏)

Venture Support Japan(ベンチャー・サポート・ジャパン)CEOインタビュー第5回は、育児中のパパ・ママの雇用活性化に着目し、「人々が自分らしさを追求し、いきいきと暮らす世界を創りだす」というミッションを掲げ、2017年、「株式会社リアルミー」を創業した増山 祥紘氏です。

Youtube CEO interview 1 (株式会社シクロ・ハイジア 小林誠氏)

Venture Support Japan(ベンチャー・サポート・ジャパン)が創業間もないベンチャー/スタートアップ企業の代表にインタビューをし、その動画をアップすることで皆さんに広く知ってもらうおうというYoutubeチャンネルを開設しました。動画をアップして視聴してもらうことにより、人的リソースに乏しいベンチャー/スタートアップ企業の広報の役割を担う趣旨です。第1回は、知財業界では知らない人はいない2019年に独立した株式会社シクロ・ハイジアの小林 誠氏です。