~仮出願:Provisional Application(特許法38条の2は仮出願の条文か?!)〜
先日、個人発明家のお客様より、相談を受けました。
詳細は割愛し、このお客様からのざっくりの要望はどのようなものだったかといいますと、自らの発明について「とにかく早く出願して、特許出願中であることを公示したい」というものでした。
そう聞いて、1つ思い出したことがありました。以前勤めていた特許事務所で、ある弁理士が言っていた「…これは仮出願で出願する…」という言葉です。
その時、私は、アメリカに仮出願の制度があることは知っていましたが、
「日本にもあったんだっけ?」と思ってしまいました。
しかし、私は、彼の言う仮出願(?)が、どのような形式で、どのような要件の下で認められる出願であるのか、深く突っ込んで訊くことを怠りました。よって、彼の言う「仮出願で出願」がどのような出願であるか把握していませんでした。
そこで、「うろ覚えではあるのですが…」ということわり付きで、
「日本にも仮出願というものがあるらしいので、それで出願してはどうか?」
とお客様に提案しました。
と提案はしたものの、そもそも、日本に仮出願というものはあるのでしょうか。
まず、アメリカの仮出願から見てみましょう。
INPITの用語集によりますと以下の記載がありました。
「クレームが要求されない略式の出願。明細書の様式も厳格には要求されない。しかし、実施可能要件やベスト・モード要件は要求される。英国、豪州にも同様な制度がある。」
なお、ベスト・モード要件とは、米国特許出願の要件の一つであり、発明者が最良と信じる発明の態様を明細書に記載しなければならない要件のことです。
では、根拠となる条文はどうでしょうか。米国特許法111条(b)を見てみましょう。
A provisional application for patent shall be made or authorized to be made by the inventor, except as otherwise provided in this title, in writing to the Director. Such application shall include–
(A) a specification as prescribed by section 112(a); and
(B) a drawing as prescribed by section 113.
これをすごく簡単に要約すると大体以下のようになります。
「仮出願は…明細書と図面を含むものとする。」
そして、
A claim, as required by subsections (b) through (e) of section 112, shall not be required in a provisional application.
「クレーム(請求項)は、仮出願においては必要ではない…」と続きます。
一方、日本の仮出願(?)はどのようなものでしょうか。
我が国の特許庁は、仮出願を通常の出願に代わる新たな出願として謳っておらず、特許法においても米国特許法のようにProvisional Application(仮出願)と題された条文はありません。
しかし、米国の111条(b)と似たような条文は存在します。
特許法第38条の2第1項を見てみましょう。
第38条の2(特許出願の日の認定)
特許庁長官は、
特許出願が次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特許出願に係る願書を提出した日を特許出願の日として認定しなければならない。
一 …
二 …
三 明細書(外国語書面出願にあつては、明細書に記載すべきものとされる事項を第36条の2第1項の経済産業省令で定める外国語で記載した書面。以下この条において同じ。)が添付されていないとき(次条第1項(先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願)に規定する方法により特許出願をするときを除く)。
とても分りにくいですね…
ここでもごく簡単に分かり易く説明すると、
「願書に明細書を添付して提出すると、その提出した日を出願日として認めますよ」
という意味になります。
要するに、請求項(特許請求の範囲)は出願時には必要ないですよ、ということですが、米国特許法のように条文には明記されていません。
まとめると、日本には仮出願と積極的に題した出願(制度)はないけれども、米国の仮出願と似たような出願は可能であるということになりそうです。
なお、我が国でも、明細書には実施可能要件が求められるので、最初からある程度きちんとした明細書を出さなければなりません。
明細書を書くのが一番時間がかかるのに、その明細書を最初から要求されるというのは、いかがなものでしょうか…。
異論は有るかとは思いますが、個人的には、さほど通常の出願と変わらないような気がします。