知財コラム④

~ドワンゴ特許侵害訴訟敗訴の件〜
<ハードウェア構成の一部が外国にある場合>

ドワンゴ対FC2他の特許侵害訴訟の判決が地裁レベルではありますが、実質ドワンゴ敗訴という内容で業界をざわつかせたのは記憶に新しいところです。

今回は、その判決のポイント部分にフォーカスし、さらに、2022年7月20日に出された別特許の判決に触れていこうと思います。

まず、令和4年3月24日に出された発明の名称を「コメント配信システム」とする特許第6526304号に係る判決のポイントを見ていきましょう。

訴訟の争点は複数に及び、長い判決文となっていますが、まず、被告であるFC2他のシステムは当特許の技術的範囲に属すると判断されており、それを前提に「争点4(被告らによる被告システムの「生産」の有無)について」の判断が下されています。

ポイントとなる記載を抜粋してみました。

「…したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことになるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることができない。」

「しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内において作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、 明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出されるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1 が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。」

要するに、被告のシステム構成の全部が日本にある訳ではなく、一部がアメリカにあるので、日本国内での生産とは認められず、特許権に係るシステムを実施したとはいえないと判断しています。

ここで私的に疑問なのが、なぜ「生産」に当たるか否かの主張をしたのか?というところです。
というのも、物の発明の実施には「使用」があるからです(法2条3項1号)。

当判決は地裁レベルらしい法律に忠実な形式的判決ですが、被告の行為を「使用」とした場合は、判決の内容は違った可能性もあったのではないかと思います。

訴訟を提起した時点では、「使用」が実施として列挙されていなかったのでしょうか。それとも、何らかの理由で「使用」ではなく「生産」とする必要がドワンゴ側にあったのでしょうか。

そこら辺の事情は判決だけを読む限りではわからなそうです…

そして、7月29日にドワンゴHPに掲載された知財高裁2022年7月20日判決については、

同HP上に以下の記載がありました。

「本判決は、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、日本の特許権の効力を及ぼし得ると判断しました。本判決は、以上を踏まえて、本件におけるFC2動画等のサービスの実態その他の諸般の事情を考慮して、本件各プログラムの配信は日本国内における特許権侵害に当たると判断したものであり、国外のサーバを利用して行われる特許権侵害行為に関して画期的な判断を下したものであると考えております。」

これを見たとき、私は、3月24日の判決の控訴審の判決がもう出されたのかと思い、随分早いなと思いましたが、これは、2018年9月19日に棄却された訴えに対する控訴審判決のようです。

「コメント配信システム」原出願には分割出願が複数あるもようなので、おそらくその分割出願の1つに係る特許に基づく訴えと思われます。

いずれにせよ、知財高裁のこの判断は、アメリカのBlackberry事件(2002~2006年頃)の判決を踏襲するもので、「画期的な判断」というよりは、いたって妥当な判断という気がしました。

特許第6526304号に基づく令和4年3月24日の地裁判決についても、控訴審では同様な判決になると思われます(つまり、次回はドワンゴに有利な判決になるはずです)。

ただ、これだけ長い間、いくつもの訴訟を並行して行っても、アメリカに比べると雀の涙ほどの賠償額なので、我が国で知財訴訟を提起するのは、費用対効果を考えると、引き続きなかなかモチベーションが沸かないアクションといえそうです。

<追記>
昨今のネットまたはソフトウェア関連発明の請求項を物の発明で構成することは、実施の状況に即しておらず、今回紹介した判例のように侵害者に言い逃れをされる隙を与えてしまいます。パッケージ化されたシステムを販売するのでなければ、方法の発明で構成するのが無難でしょう。

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